これからのこと
デザイン会社を創業して19年が経ち、47歳になった。人生の大きな節目を迎えた今、これからどう生きていくかを書き留めておきたい。
2007年にアジケを立ち上げてから、「会社を死なせてはならない」緊張感が常に頭のどこかにあった。2026年1月、M&Aを経てメンバーズグループへ参画したことで、生き残るための強張った経営にはひとまず区切りがついた。社長は続けるが、生存本能に突き動かされる力みは捨てて、仕事と人生をじっくり味わう経営へ意識をシフトさせている。
仕事のこと:歪みを愛し、つくり続ける
社名の「アジケ」には、隙のない正論や完璧な円よりも、「味わいのある歪み」を面白がりたい思いを込めている。
千利休の黒楽茶碗が美しいのは、作為を超えた土と火の揺らぎ、そのやり直しのきかない一回性の中で生まれるからだ。カントの「曲がった木」も重なる。生身の人間が生きる現実は、最初から真っ直ぐではない。AIがどれほどシミュレーションを重ねて最適解を出そうとも、少し歪んだところにしか宿らない体温や手触りがある。
昔の私は、ひとりで何とかしようと肩肘を張り、無駄な虚勢も張っていた。けれど歳を重ねた今は、自分の未熟さをそのまま引き受け、不完全な者同士で調和していければいいと思えるようになった。
等身大でいるために大切にしているのが「知行合一」だ。頭の中の綺麗なロジックで完結させず、自ら動いて現場に向き合うこと。今もmacOSアプリの開発など、現場で手を動かしてつくり続けているのは、それが自分を地に足のついた状態に留めてくれるからだ。頭の計算だけでは届かない、素材や使い手との摩擦の中にしか本当の納得感はない。
この延長線上に、これからの仕事がある。関わる人たちと一緒に豊かになっていくこと。AIがどれほど制作工程を圧縮しても、最後に価値を決定づけるのは現場で人と向き合い届ける「売る力」だ。そうした力を持ったクリエイターを支援すること。そして40代のうちに自著を形にし、50代では信頼できる後継者へバトンを渡すこと。
生活のこと:日常を味わう
仕事の忙しさに逃げるのをやめ、人生の余白を味わえる生活者でもありたい。私にとっての贅沢は、消費することではなく、ごくシンプルな日常の中にある。
職場やジムから徒歩15分の場所に住み、平穏な家庭と静かな隣人に恵まれること。アラームをかけずに起き、急がずに一杯のコーヒーを淹れること。気の合う人と笑い、家族と食卓を囲み、一冊の本を一気に読み切る静かな時間を持つこと。情報がどれほど加速しても、身体を通した日々の確かな手応えを手放さずにいたい。
これから
静けさを愛しながらも、新しいことへ踏み出す火種は絶やさずにいたい。
どうぞよろしくお願いします。